Me & My Jewelry

小林 新ー スタイリスト

さまざまなジャンルで活躍するクリエイターたちに、ジュエリーにまつわるパーソナルな話を訊く新連載がスタート。初回はファッションスタイリストとして活躍するかたわら、自身でもその時に欲しいものだけをピンポイントで作り上げるコンセプトブランド、「3A(ミツエ)」をスタートさせた小林 新さんにインタビューしました。

Q:ジュエリーとの出会いを覚えていますか?

何を最初に買ったのかは覚えていないけど、まだ中学生とか高校生だったころに、東京に遊びに来ると、当時は表参道とか原宿あたりにジュエリーを売る露天商がたくさんいたでしょ。おじさんたち。そういうところで買ったのが初めてだったかな。今考えたらかなりチープでどうしようもない物なんだけど、当時の自分の中では宝物でした。母親の前でジュエリーをつける気恥ずかしさみたいなのはよく覚えています。「なに指輪してんの」みたいなね(笑)

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Q:思い出に残っているジュエリーはありますか?

僕の場合、ジュエリーとかアクセサリーって、ファッションとして身につけているという部分ももちろんありますが、それよりももっと、精神性に関わっている部分が大きいと思うんです。だからどんなブランドのどんなデザインの物かっていうよりも、なんの時にどこで買ったとか、誰にもらったとか、そういう思い出とともにジュエリーがある感じですね。

例えば、まだ20代で駆け出しの時に、アメリカのフェニックスからグランドキャニオンとかアンテロープ キャニオンの方を、車で3日4日かけて旅をしたんだけど、その時に訪れた街で買ったズニ族のネイティブアメリカンジュエリーは、すごい思い入れがあります。当時はまったくお金がなくて、クレジットカードも持っていない状態だったから、それこそ有り金を全部はたく勢いでね(笑)。やっぱり旅で買った物っていうのは、一番思い出になりますもんね。そういう大事な物を自分のお守りみたいに感じるっていうのは、潜在意識みたいに子供の頃からずっとあります。

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Q:普段からよくジュエリーを身につけますか?

あんまりジャラジャラつけるタイプではないけど、時計とか眼鏡みたいに、ジュエリーも何かしら必ず身に着けて外出します。こうやって自分で身に着けられる物意外でも、アンティークのパーツみたいな物も好きだから、海外の蚤の市とかネットで常に珍しいものを探していて、ひたすら蒐集しています。

そうやって集めた物を眺めながら、これってどんな使われ方をしていたんだろうとか、このディテールの意味はなんだろうとか考えているだけでもすごく楽しくて、このパーツとこのパーツを組み合わせたらどうだろうって、いろんなアイデアが湧き出てくるんです。実際にそうやって型を起こしたのが、今日もウォレットチェーンみたいに着けているけど、「3A」名義で初めて作ったシルバーのキーチェーン。思いつきの軽い気持ちで作ってみたら、何から何までものすごく大変で……(笑)。理想を形にすることの難しさを思い知らされました。でも、人が持っていない物とか、人と違う物が欲しいって思う気持ちは子どものころから全く変わっていないから、どうしても究極は、自分で一から作ってみたいって思っちゃうんですよね。

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Q:ジュエリーのこなし方で参考にしている物はありますか?

よく映画とかミュージックビデオを観るんだけど、やっぱりアクセサリーとかジュエリーをさり気なく着けている感じがかっこいいよね。今日もポロシャツの上に24Kのゴールドチェーンを合わせているけど、こういう感じもデンゼル・ワシントンみたいな人がさらっとやると、本当かっこいいんだよね。アメリカに行くと、Tシャツにラングラーとかカーハートのパンツみたいな超カジュアルなスタイルなのに、ジュエリーとか時計だけ良い物をさらっと着けてる人とかが多くて、そういう感じは憧れるんですよね。

あとは『シングルマン』みたいな映画を観ても、やっぱりああいうクラスのイギリス紳士は小指にシグネットリングをしていたり、お洒落っていう以前に、まず着けることに意味があるっていうことが、何よりもジュエリーらしい楽しみ方だと思うんです。結婚指輪ももちろんそう。スタイリストとして仕事でもジュエリーをよく使うけど、そういう部分は一番大事にするようにしているかな。神は細部に宿るじゃないけど、海外の映画は細かいところまでしっかりと時間とお金と意識を注いでいるから、観ていてどんどん引き込まれるし、純粋にかっこいいって思えるんです。

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僕も日本のCMとかドラマでよくお仕事をさせてもらっているけど、ディレクターによっては、「そんなところにお金を使っている余裕はないんです」って、真正面から言われちゃうんですよ(笑)。でも1930年代なら眼鏡も帽子もジュエリーも30年代のスタイルじゃなきゃおかしいし、せっかく世界観に引き込もうとしているのに、ちょっとカメラが寄った時に、どうしても嘘がバレちゃうじゃないですか。だから僕は直接オーダーがなくても、予算が無い時でもこういう私物を大量に持ち込んで、ストーリーや設定に対して嘘のない本物を使ってもらうようにしています。もしかしたら、そういう部分は洋服よりも気を遣っているかもしれないですね。どんなに小さくて映らなくても、これがなければ成立しないっていう気持ちで作り込んでいます。ジュエリーってそういう物だし、そもそも良い物って、細かいところを一つひとつこだわり抜いて、初めて出来上がる物だと思うんです。

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Photography by Ryuta Seki
Edit & Text by Shingo Sano