SOS STUDIO

in Machiya, Arakawa

2021年9月、「シンパシー・オブ・ソウル」を展開するルシエシードは、本格的な自社工房を荒川区の町屋に設立しました。一般的にジュエリーの製作工程の中には、自社で作業をする部分と、専門の業者に外注する部分が分かれて存在していることがほとんどですが、新しく出来たこの自社工房「SOS STUDIO」には、ジュエリー製作に必要な設備がほぼ全て揃っています。これまでは、ルシエシードの自社工房と言えば、渋谷区恵比寿の本社内にある、小さなアトリエスペースしかありませんでした。そこでは作業の内容はおろか、作業できる人数も限られてしまうため、生産数や生産工程の幅を拡大するのにはどうしても限界がありました。あらゆる設備を備えた新しい「SOS STUDIO」では、自社の職人チームを大幅に補強することが可能になり、より強固な生産体制が新たに編成されています。

SOS STUDIO 看板

「SOS STUDIO」の工場長を務めるのは、今回の「S.O.S MAG」で、別企画の「A Day of My Life」にも登場した渡邉祐介です。これまで外注に出していた工程を自社で賄えるようになったことは、生産コストはもちろん、輸送にかかる時間や人員、さらにはCO2を削減することにもつながります。しかし、ルシエシードにとって最も大きな恩恵と言えるのは、実際に「S.O.S fp」のショップに来て、商品を購入して、毎日使ってくれている顧客の顔を知る自社の職人たちが、自分たちの手で商品を作り上げる環境が整ったこと。本社スタッフやショップスタッフ含め、シンパシーのあるメンバーで作り上げた、魂のこもったジュエリーをより多く世の中に送り出せること。ルシエシードのジュエリー作りは、2021年を境に、また新しいフェイズへと突き進んでいくのです。

SOS STUDIO 作業道具

「SOS STUDIO」立ち上げメンバーの一人で、昨年ジュエリーの専門学校を卒業したばかりの水越真子は、男性ばかりの工房にフレッシュな風を送り込みます。最年少のルーキーながら、卒業制作で作製した作品が「JJAジュエリーデザインアワード」で新人優秀賞とジュエリー議員連盟賞を受賞しており、すでに即戦力としての実力をいかんなく発揮しています。小学5年生の時に、テレビで山梨県立宝石美術専門学校と職人の紹介を観たことをきっかけに、将来ジュエリーの職人になることを夢見た彼女は、美術系の高校に進学し、油絵やポスターカラー、版画などを学びました。その後、憧れの宝石美術専門学校にも進学し、卒業後の今年からは、晴れてルシエシードの社員となりました。

SOS STUDIO スタッフその1

地金の加工や石の研磨など、仕事をする上で必要となる技術は、すでに専門学校でしっかりと身につけてきた水越は、丁寧な仕事で量産の根底を支えます。ハイレベルなクオリティで反復作業を続けるための集中力と、生産ラインをスムーズに回すために必要なチームワークは、学生時代にはなかなか鍛えられないポイント。先輩の職人たちのサポートを受けながら、日々成長を続けています。

SOS STUDIO スタッフその2

もう一人の立ち上げメンバーである雫祐貴は、「SOS STUDIO」設立のために召集されたジュエリー作りのスペシャリスト。日本デザイン専門学校(現:日本デザイン福祉専門学校)を卒業後、プロダクトデザイン会社でCADを学び、親が経営するジュエリーOEMの会社でキャリアを積みました。そこではルシエシードの仕事も長年担当しており、その幅広い知識と経験を「SOS STUDIO」で存分に発揮するべく、立ち上げメンバーとしてチームに参加しました。

SOS STUDIO スタッフその3

ちょうどこの日は、11月下旬に発売されたクリスマスモデルのクロスペンダントを作成中。ヤスリ、リューター、板バフ、布バフと、数種類の工具を使い分けながら、ゴールドクロスの表面を丁寧に磨き上げていきます。この記事に合わせて公開されたスペシャルムービーを観ていただくとわかりますが、S.O.S fpのショップにずらりと並んでいる一つひとつの商品は、このように一つひとつ職人による手作業で、膨大な時間をかけて丁寧に作り上げられているのです。

SOS STUDIO 作業風景その1

工房の中は、地金の粉塵を回収するファンが回る音や、金槌で地金をカンカンと叩く音、ヤスリでギコギコと削る音、リューターで表面を磨くモーター音など、さまざまな音が絶え間なく続きますが、職人同士はというと、黙々と自分の作業と向き合うばかり。それぞれ担当する工程が異なるため、作業をしている時は、基本的に自分の作業だけに集中しています。昼の休憩以外にも、数時間ごとに小休憩を挟みながら、常に作業への集中力を研ぎ澄ましています。

SOS STUDIO 作業風景その2

扱うものがかなり小さいジュエリーの工房では、限られたスペースの中でもさまざまな工程をカバーすることができます。簡素な作りの物であれば、一人ずつ割り振られた彫金作業机の上で、ヤスリがけから溶接まで、一通りの作業をこなすことが可能です。ここでは水越が、クリスマス限定のクロスペンダントに留め具のバチカンを溶接する作業を続けています。

SOS STUDIO 作業風景その3

バチカンを溶接する作業は、バーナーを使う昔ながらの方法の他に、最先端のレーザー溶接機を使って行う方法もあります。この溶接機の隣には、やはりレーザーによってジュエリーに刻印を施す、レーザー加工機も配備しています。職人が手作りするジュエリーとは言え、最先端の技術によって作業効率を高めていくことで、クオリティの維持や、働く環境の向上にも役立っていきます。

SOS STUDIO 作業風景その4

右から、工場長の渡邉祐介、若手のホープ水越、知識豊富なベテランの雫。「SOS STUDIO」の顔となる職人たちは、ルシエシードの新しい道を力強く切り拓いていきます。自らの持てる力を存分に発揮できるステージがある限り、ジュエリー作りの未来は、いつまでも輝き続けるはずです。

SOS STUDIO スタッフ集合

Photography by Junji Hirose
Edit & Text by Shingo Sano