馬の蹄鉄のモチーフであるホースシューは、古くから、魔除けや幸運の象徴として親しまれてきたタイムレスなアイコンです。人と馬との歴史は深く、近代に工業化が進んで機関車や車が登場するまでは、馬は人間の生活に欠かすことのできない大切な存在でした。そんな馬たちの命といえるのが、重い荷物や人間を背負って長い距離を移動するための脚。その大事な脚を護る役割を担う馬蹄が、翻って人間の生活を護るラッキーチャームに見立てられたのは、とても自然なことのように思えます。
実際に馬蹄がラッキーチャームとして人々の間で活用され始めた地域と経緯については諸説ありますが、ヨーロッパ諸国では昔から、家の玄関の扉に魔除のために馬蹄を打ち付けることが慣習として受け継がれてきました。有史以来、大陸全土で繰り広げられてきた民族間の争いや、目に見えず、得体の知れない伝染病などの脅威を乗り越えてきたヨーロッパの人々にとって、自分の大切な家族を下界の邪気から護ろうとする行為は、ただのおまじない以上に深い意味を持っていたことが想像できます。
文明が飛躍的に進化した現代においても、私たち人類が直面している問題の数々は、あまり昔と大きく変わってはいないようです。家族や身の回りから邪気を追い払う古のラッキーチャームは、いまも変わらず、私たちの生活を優しく見守ってくれるはずです。
